「さんこうあんにちじょう」は、HP「杉篁庵」(sankouan)の1頁です。
主にその日の庭の花の写真を掲載しています。
 
新春の朝まだき
新春の朝まだき、歌や詞を読んで過ごす正月です。

「あらたまの年立帰る朝(あした)より待たるゝものは鶯の声」 素性法師
「朝まだき起きてぞ見つる梅の花夜の間の風のうしろめたさに」 元良親王

李清照の菩薩蠻を正月を迎えた詞として、その訳詩をあげます。

 「春の朝」
雲間に鳥の声もせず
雪消の窓に風もなし
煌めくかざし
春迎え

明くるを告げし角笛に
茜に染まる空の色
花いまだしに
風寒し


李清照の詞はこちら。
それを以下に転載。

《原詩》
  菩薩蠻  李清照
歸鴻聲斷殘雲碧
背窗雪落爐煙直
燭底鳳釵明
釵頭人勝輕

角聲催曉漏
曙色回牛斗
春意看花難
西風留舊寒

《和訓》
帰る鴻(おおとり)の声断えて 残雲碧く
背(せな)の窗(まどべ)の雪落ちて 爐煙の直し
灯(ともしび)の底(もと) 鳳(とり)の釵(かざし)は明(きらめ)き
釵の頭(かしら) 人勝に軽し。

角声(つのぶえ) 曉漏(あかとき)を催し
曙の色は牛斗に回(もど)るも
春意 花看るには難く
西風 旧を留めて寒し。

《語釈》
・歸鴻:春になって北へ帰る鴻。
・鴻(おおかり):ひしくい。大形のガン。
・聲斷:鳴き声が聞こえなくなったこと。
・殘雲:残りの雲。わずかな雲。
・雲碧:雲が青い。蒼雲。漢詩では使われるが、夜(宵や明け方)の雲の色か。
・背窗:後ろ側の窓。北側の窓。裏窓。
・雪落:雪が溶けて落ち(その音が静寂の中に響く)。
・爐煙直:炉(香炉あるいは囲炉裏)の煙が真っ直ぐに上っている。(風もなく、静かな様子)
・燭底:ともしびの下で。
・鳳釵:鳳(おおとり)の飾りのある(二股の)かんざし。簪。
・明:きらきらとしている。
・釵頭:かんざしの飾りの部分。
・人勝:正月七日は人勝節、人日。金箔などで、吉祥を願うひとがたの飾りを作り、髪につけた。(七日には人を占ってその日が晴天ならば吉、雨天ならば凶の兆しであるとされた)七種粥の風習が残る。本来は羮(あつもの。汁)だった。
・角聲:角笛の音。(時を告げる角笛の音がもの悲しく響いてくる。)あるいは軍隊の楽器。
「角聲」を軍隊の楽器ととれば、彼女のいた建康に金が迫り、軍事的な緊張が高まった時の詞とも解釈できるが、静かな夜明けで、聞こえてくるわずかな音が時を告げる角笛の音だったのだろう。
・催:うながす。もよおす。
・曉漏:あかつきの時。漏は漏刻で、水時計をいうがここは時刻の意。
・曙色:あけぼのの色。明るくなってきた空のようす。
・牛斗:二十八宿の牛宿と斗宿の間。方位でいうと北東か。=斗牛、斗牛之間。【斗宿〈射手座の二等星〉北斗七星・牛宿(山羊座の一等星)牛の首/七夕の彦星】
・春意:春の気配。
・看花:花見。
・西風:西からの風。宋詞では、西や北は、異民族を暗示する言葉でもあるという。
・留舊寒:以前(冬)の寒さを留める。

《詞意》
帰って行く鴻の鳴き声もやみ、わずかな雲が深い緑色に空に漂っています。
裏窓にも雪が溶け落ち、香炉の煙は静かに真っ直ぐ上っています。
ともしびのもと、鳳の簪(かんざし)が灯の光にきらきらと輝いて、
簪につけた春を迎えた人日の飾りはあまりに軽やかです。
静けさの中に、今しも角笛の音が朝方の時の移ろいを急きたて、
朝明けの色が北東の空にもどってきます。
しかし、春の気配はまだお花見をするという気分にはほど遠く、
西から吹いてくる風は冬を留めていて寒いままです。

http://kansi.sankouan.sub.jp/
【2016.01.03 Sunday 06:57】 author : 杉篁庵主人
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老景沈重

 

 
書名・装丁が、まことに魅力的で「句集」より「歌集」の趣きを感ずる片山由美子句集『香雨』(こうう)を読んでいた。「香雨」は、あとがきに「依微たる香雨、青氛氳たり」という李賀の詩句によるとあった。詩としては初夏のもので、処暑に向かい、やっとのこと朝夕がいくぶん過ごしやすくなってきたこの頃の景には合わないが。
この本から「言葉にならないけはいようなもの」をどう言葉で掬い取るか、難しい課題を与えられたように感じている。

あとがきには詩の前半の引用があったが、全体は七句からなる七言古詩である。

『河南府詩十二月楽辞、幷閏月』
「四月」    唐・李賀(791〜817)
暁涼暮涼樹如蓋
千山濃緑生雲外
依微香雨憬氳
膩葉蟠花照曲門
金塘閑水搖碧漪
老景沈重無驚飛
墮紅殘萼暗参差

暁に涼しく暮に涼しく 樹は蓋(がい)の如く、
千山の濃緑 雲外に生ず。
依微(いび)たる香雨 青(せい)氛氳(ふんうん)たり。
膩葉(じよう)蟠花(ばんか) 曲門を照らし、
金塘(きんとう)の閑水(かんすい) 碧漪(へきい)揺る。
老景 沈重にして 驚飛する無く、
堕紅(だこう)残萼(ざんがく) 暗に参差(しんし)たり。

・依微:ぼんやりしたさま。
・氛氳:気の盛んなさま。
・膩葉:つややかに厚い葉。
・蟠花:群がり咲く花。
・曲門:宮中の隅々にある門。
・金塘:「金」は美しいことを言う冠詞。「塘」は堤、池。
・碧漪:「漪」はさざ波。波紋
・参差:互いに入り交じるさま。

夜明けは涼しく、暮れもまた涼しく、樹木は絹傘のように繁り覆って、
まわりの山々は緑を深くして、雲の上にもそびえている。
細かな香しい雨に、緑の気配が靄のように立ちこめる。
緑の厚みを帯びた葉や、集まり咲く花が角の門に照り映え、
美しい堤の閑かな水面に、碧のさざ波が揺れている。
樹木の成熟したたたずまいは重々しく、飛び立つ鳥も無く、
散りおちる真紅の花と枝にのこる萼とが木下闇に入りまじる。


李賀の詩とは違った意味でまさに「老景沈重無驚飛」の句が今の自分の心境と重なった。

【2012.08.17 Friday 14:40】 author : 杉篁庵主人
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秋の気配




暦の上で秋になる立秋(8/7)には、まだ間があるものの、夏の日盛りの庭に桔梗や水引が咲き始めて、どことなく秋の気配も忍び込んでいる。

  夏夜追涼 楊萬里 
夜熱依然午熱同、開門小立月明中。
竹深樹密蟲鳴處、時有微涼不是風。

  夏夜涼を追ふ 楊万里 ・南宋の学者、詩人。
夜熱依然として午熱に同じ、
門を開きて小(しばら)く立つ 月明の中。
竹深く 樹密にして 虫鳴く処、
時に微涼有るも 是れ風ならず。

夜の熱気は、まだまだ昼間のあつさと同じで
門を出て、しばらく月明かりの中に立っていた。
竹藪は深く 樹々ががうっそうと茂って、虫が鳴いているところでは、
時に微(かす)かな涼しさが訪れる、風も無いのに・・・・。

 

【2012.08.05 Sunday 14:59】 author : 杉篁庵主人
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溽暑に

 

なんと三週間ぶりの更新!

新盆の準備もあって北軽井沢から帰ってきたら、暑いこと暑いこと。
体が慣れるのに二日三日かかる。

さて、李杜の夏の暑さを詠った詩です。

   夏日山中  李白 
懶搖白崟陝⇒芒戌慘喘罅
脱巾挂石壁、露頂灑松風。
 
白羽扇(はくうせん)を揺るがすも懶(ものう)く、
青林(せいりん)の中(うち)に裸袒(らたん)す。
巾(きん)を脱して石壁に掛け、
頂(いただき)を露(あら)はして松風に灑(そそ)がしむ。

白い羽の団扇で扇ぐのもおっくうで、
青々と木の茂った森林の中で肩肌脱ぎになった。
頭巾を脱いで岩の壁面にかけ、
頭を丸出しにして松の木を吹き抜ける風にさらしてみた。


  夏夜嘆   杜甫
永日不可暮、炎蒸毒中腸。
安得萬裡風、飄搖吹我裳?
昊天出華月、茂林延疏光。
仲夏苦夜短、開軒納微涼。
虛明見纖毫、羽蟲亦飛揚。
物情無巨細、自適固其常。
念彼荷戈士、窮年守邊疆。
何由一洗濯、執熱互相望?
竟夕擊刁鬥、喧聲連萬方。
青紫雖被體、不如早還鄉。
北城悲笳發、鸛鶴號且翔。
況複煩促倦、激烈思時康。

  夏の夜の嘆き  
日永くして暮るる可からず、炎蒸 中腸を毒す。
安んぞ得んや万里の風、飄搖と我裳に吹かんや?
昊天に華月出でて、茂林に疏光を延ばす。
仲夏の夜短かきを苦しみ、軒を開きて微涼を納む。
虛明に纖毫を見るに、羽虫 亦 飛び揚がる。
物情の巨細無く、自適にして其の常なるに固る。
彼を念じ戈士に荷はせ、年を窮め辺境を守る。
何んぞ由なるや一たびの洗濯、熱を執るは互いに相望まん?
竟(つひ)に夕には刁鬥(ちょうとう)を擊ち、喧声 万方に連らなる。
青紫を体に被ふと雖ども、早に郷に還えるに如かず。
北城に笳の発するを悲しみ、鸛鶴は号(さけ)び且つ翔ぶ。
況んや複た倦むを促がさるも煩らはしく、激烈に時の康(やす)んずるを思ふ。


特にこの夏は「今ほどに激しく強烈に安らかな世を思うことはない。」という杜甫の心情が心に沁みる。

【2012.07.29 Sunday 14:00】 author : 杉篁庵主人
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新凉

 
      照  随      ┐ だ  雪  赤  そ  笛  昼  夕    
      の  分     今  ん  の  い  れ  を  の  刻    
       ┐ と     夜  な  よ  絹  よ  吹  暑  に    
      采  艶     の  様  う  の  り  く  さ  な    
      桑  っ     寝  が  な  薄  水  の  を  っ    
      子  ぽ     所  笑  白  い  面  は  さ  て    
     └   い     は  っ  い  衣  の  止  っ  雨    
      の  の     こ  て  肌  が  ヒ  め  ぱ  を    
      訳  で     と  語  が  透  シ  て  り  伴    
      で  す     の  り  す  き  の   ` と  っ    
      す  が     ほ  か  べ  と  花     洗  た    
       ゜  `    か  け  す  お  の     い  涼    
         こ     涼  て  べ  る  よ     拭  や    
         れ     し  れ  と  肌  う     っ  か    
         は     い  ま  や  を  な     て  な    
          `    よ  し  わ  み  薄     く  風    
         宋     う  た  ら  が  化     れ  が    
         の     だ   ` か  く  粧     ま  吹    
         女     ね     く  よ  を     し  い    
         流    └      香  う  し     た  て    
         詞     と     り  に  ま      ゜  `   
         人      ゜    ま  撫  す             
         ・           す  ぜ   ゜            
         李            ゜ て                
         清               `               
                                         
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                        笑  絳  理  晚   ┐   
                        語  綃  罷  來  夏    
                        檀  縷  笙  一  意    
                        郎  薄  簧  陣 └     
                         ` 冰   ` 風   ┐   
                        今  肌  卻  兼  新    
                        夜  瑩  對  雨  凉    
                        紗   ` 菱   `└     
                        幮  雪  花  洗       
                        枕  膩  淡  盡  李    
                        簟  酥  淡  炎  清    
                        涼  香  妝  光  照    
                         ゜  ゜  ゜  ゜      
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
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   か   ┐     ┐ 笑  香  氷  絳  却  笙  炎  晩    
   む  紗     今  ひ  る  の ┌┐ つ  簧 ┌┐ 来    
   し  幮     夜  語   ゜ 肌  あ  て ┌┐ あ  の    
   ろ └      紗  れ     を  か  菱  し  つ  一    
   と  は     幮  る     瑩 └┘ 花  ょ └┘ 陣    
   い   `    枕  檀    ┌┐ き ┌┐ う  き  の    
   う  薄     簟  郎     や  綃  り  こ  光  風    
   夏  絹     の   `    う  縷  ょ  う  を  は    
   用  の     涼       └┘┌┐ う └┘ 洗  雨    
   の  帳     し        じ  い  か  を  ひ  を    
   敷 ┌┐   └          ` と └┘ 理  尽  兼    
   物  と     と        雪 └┘ に ┌┐ く  ね    
   で  ば      ゜       は  の  対  を  せ   `   
   す  り              膩  薄  し  さ  り       
    ゜└┘            ┌┐ く  淡 └┘  ゜      
       `             に   ` 淡  め          
       ┐            └┘    と  罷          
      枕              に     妝 ┌┐         
      簟              し    ┌┐ や          
     └               て     よ └┘         
      は              酥     そ  め          
       `            ┌┐    ほ  て          
      枕              そ    └┘  `         
      と             └┘    ふ             
      た              と      ゜            
                                         
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      な  送  き  そ  こ  い  い  て  人  李       
      文  り   ` の  れ  ま  う  趙  の  清       
      章  ま  動  後  は  し  共  明  家  照       
      で  し  乱   ` そ  た  通  誠  に  は       
      す  た  に  清  の   ゜ の  と  生  北       
          ゜ 翻  照  頃     趣  い  ま  宋       
         こ  弄  が  の     味  う  れ  の       
         の  さ  44  詞     を  よ   ` 末       
         経  れ  歳  で     持  く  天  期       
         緯   ` の  す     ち  理  真  か       
         を  夫  と   ゜    な  解  爛  ら       
         記  も  き        が  し  漫  南       
         し  亡   `       ら  あ  な  宋       
         た  く  中         ` え  少  の       
          ┐ な  国        幸  る  女  初       
         金  っ  で        せ  夫  時  期       
         石  て  は        な  と  代  に       
         錄  波   ┐       結   ` を  生       
         後  乱  靖        婚  文  す  き       
         序  万  康        生  化  ご  た       
        └   丈  の        活  財  し  人       
         は  の  乱        を  の   ` で       
         感  晩 └         送  収  結  す       
         動  年  が        っ  集  婚   ゜      
         的  を  起        て  と  し  文       
                                         
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こちらからどうぞ!
「宋詞鑑賞・李清照・朱淑真」
 
「金石錄後序」

 
【2012.05.20 Sunday 15:00】 author : 杉篁庵主人
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初夏爽風


 
 
                  緑  晴  流  石        そ  初    
   緑  晴     流  石  陰  日  水  梁        ん  夏    
   陰  日     水  梁  幽  暖  濺  茅  初     な  の    
                  草  風  濺  屋  夏     風  爽    
   幽  暖     濺  茅  勝  生  度  有  即     情  や    
   草  風     濺  屋  花  麦  両  彎  事     を  か    
           ┌┐    時  気  陂  碕        詠  な    
   花  麦     せ  彎              王     ん  風    
   時  気  両  ん  碕              安     だ  の    
   に  を  陂  せ ┌┐             石     詩  心    
   勝  生  を  ん  わ                    が  地    
   る  じ  度 └┘ ん                    思  よ    
        ┌┐ と  き                    い  い    
         わ  し └┘                   出  一    
         た  て  有                    さ  日    
        └┘    り                    れ  で    
         る                          ま  す    
                                    し   ゜   
                                    た       
                                     ゜      
                                            

 
               に  新  麦  晴  く  流  石 ┌┐      
               勝  緑  穂  れ   ゜ れ  の  訳       
               る  の  の  た     る  橋 └┘      
               風  木  香  初     水   `         
               情  陰  り  夏     は  茅          
               で   ` を  の     さ  ぶ          
               あ  下  運  澄     ら  き          
               る  生  び  ん     さ  小          
                ゜ え   ` だ     ら  屋          
                  の     陽     と   `         
                  草     射      ` く          
                  々     し     土  ね          
                   `    の     手  く          
                  ま     下     の  ね          
                  こ      `    間  曲          
                  と     暖     を  が          
                  に     か     抜  っ          
                  春     い     け  た          
                  の     風     て  岸          
                  花     は     い   `         
                                            

 
                                       初    
                           木     木     夏    
                           の     の     の    
                           陰     陰     爽    
                           も     も     や    
                           光     光     か    
                           り     澄     な    
                        母  眩     み     風    
                        の  し     た     を    
                        摘  く     り     詠    
                        み  若     聖     い    
                        て  葉     五     た    
                        し  風     月     い    
                        草              と    
                        抜                   
                        き                   
                        て                   
                        を                   
                        り                   
                                            
                                            
【2012.05.13 Sunday 14:07】 author : 杉篁庵主人
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白雲深處躍金龍

 
今朝初詣に行った近くの神社に飾ってあった神輿の柱飾りが昇り竜だった。

今年の干支は「辰」。
この龍の出てくる語句に「白雲深き処 金龍躍る」というのがある。

 漱石の漢詩にこんなのがある。

無心却是最神通、隻眼須知天地公。
日照蒼茫千古大、風吹碧落万秋雄。
生生流転誰呼夢、念念追求真似空。
欲破龍眠勿忽卒、白雲深処躍金龍。

無心 却って是 最も神に通じ、隻眼(せきがん)須(すべから)く天地の公を知るべし。
日は蒼茫を照らして千古の大、風は碧落を吹きて万秋の雄なり。
生生の流転 誰か夢と呼ばむ、念念の追求 真に空に似たり。
龍眠を破らむと欲して忽卒たるなかれ、白雲深き処 金竜躍る。

この「白雲深處躍金龍」は、碧巌録第二十四則の頌の評唱に引く風穴和尚の禅語だそうである。


さて、辰年にちなんで、竜の四字熟語を拾ってみると次のようなものもある。
「雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)」: 〔雲が群がり起こるのに乗じて、蛇が竜となって昇天する意〕英雄豪傑が機会を得て立ち上がること。
「飛竜乗雲(ひりゅうじょううん)」: 英雄が時に乗じて、勢いを得ること。
「伏竜鳳雛(ふくりょうほうすう )」: 〔三国時代、司馬徽が蜀の諸葛孔明を伏竜にたとえ、龐士元(ほうしげん)を鳳凰の雛にたとえたことから〕まだ世に知られていない大人物と有能な若者のたとえ。臥竜鳳雛。
竜は中国ではめでたい動物として天子になぞらえ,インドでは仏法を守護するものと考えられたと辞書にあるが、これでみると竜は「英雄」の象徴なのだろう。
民主主義の下ではこの「英雄」とは「立ち上がる民」を言うのであろう。さて、時代を救う竜は現れるものなのか。


 「上皇西巡南京歌」 唐・李白
誰道君王行路難、六龍西幸萬人歡。
地轉錦江成渭水、天迴玉壘作長安。
 
 「上皇 南京(なんけい)に西巡するの歌」
誰か道(い)ふ 君王行路難しと、
六龍(りくりょう)西幸して万人歓ぶ。
地は転じて 錦江渭水(ゐすゐ)と成り、
天は廻りて 玉壘(ぎょくるゐ)長安と作(な)る。

一体、誰が言ったのだろうか、君主の旅路が困難なものであると。
六頭立ての馬車で(天子は)西方の(蜀へ)巡幸なさったが、あらゆる人々が歓び迎えた。
地が回って、成都を流れる錦江は、(長安を流れる)渭水となり。 
天運がめぐって、玉壘(南京を守る要害の山と関)がとこしえに安らかなところ(長安)となっている。

これは、安禄山の軍が洛陽を陥落させたため玄宗が西方(蜀)の南京である成都へ避難した時を詠った詩だが、今年はこれと同様な遷都も考えられよう。しかし福島第一原発の第2号炉と第4号炉がどうなっているか分からない中で国内に遷都できる安心な場所はあるものなのか。 


【2012.01.01 Sunday 10:55】 author : 杉篁庵主人
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再び、「絆」とは

前回(12/12の「「絆」とは」 )の続きで、また、「絆」について。

新明解は「絆」を「〔動物をつなぎとめる綱の意〕1.家族相互の間にごく自然に生じる愛着の念や、親しく交わっている人同士の間に生じる断ち難い一体感。」とし、「3.元来平等なるべき人間を理由なく束縛し、分け隔てするもの。階級意識や差別意識など。「心の絆<先入観・謬見>を解いてくれ」〔もと誤用に基づく〕」としています。
しかし、この3の「階級意識や差別意識など」という捉え方に疑義があるものの、こちらは誤用ではなく本来の使い方から来たものであると思われます。「枷(かせ)」と同義のところがある言葉でしょう。

ここでは、「絆」の語が漢詩ではどう歌われているか見てみます。このブログで漢詩を取り上げるのは久しぶりです!


   「痩馬行」   杜甫   
 東郊痩馬使我傷  
 骨骼硉兀如堵墻  
 絆之欲動転欹側  
 此豈有意仍騰驤  
  (以下略)
   「痩馬(しゅうば)の行(うた)」
東郊の痩馬(しゅうば)我をして傷ましむ、
骨骼硉兀(ろつこつ)として堵墻(としょう)の如し。
之を絆(ほだ)さば動かんと欲して転た欹側(いそく)す、
此れ豈に仍お騰驤(とうじょう)せんとするに意有らんや。
  (以下略)

華州城の東側の郭外に瘠せた馬を見て、私を痛々しい気持ちにさせた。
骨格がごつごつとやせ細って壁や牆のようであった。
これを綱で繋ぐと、動こうとして暴れる。
昔の躍動した頃を思い出しているのだ。

ここでの「絆」はまさに「馬を繋ぐ綱」です。


その杜甫の詩の中に次のようなものがあります。

  「曲江」  杜甫
 一片花飛減卻春、 風飄萬點正愁人。
 且看欲盡花經眼、 莫厭傷多酒入脣。
 江上小堂巣翡翠、 苑邊高冢臥麒麟。
 細推物理須行樂、 何用浮名絆此身。
 
一片の花飛び、春を減却するに、
風は万點(ばんてん)を飄(ひるが)へして、正に人を愁へしむ。
且つ看るは、尽きんと欲する花の眼を経(ふ)るに、
厭ふ莫かれ、多くを傷みて酒の脣(くちびる)に入るを。
江上の小堂に、翡翠(かはせみ)巣くひ、
苑辺の高塚に、麒麟臥す。
細やかに物理を推(お)すに、須(すべか)らく行樂すべきに、
何ぞ用(もち)ゐむ、浮名(ふめい)もて此の身を絆(ほだ)さるを。

一枚の花びらが散っても春の趣を減ずるのに、
風が無数の花びらを飛ばして、本当に人を悲しくさせる。
まあ暫(しばら)くは、散りゆく花を眼にして、
心痛むことが多すぎて酒が口に入るのを厭(いや)がりなさるな。 
川の畔の小さな建物には、カワセミが巣くい。 
芙蓉苑のあたりの高い爐僚蠅任麒麟が横になっている。 
細(こま)かに物の根本原理を推(おしはか)れば、出かけて遊び楽しむべきで、 
虚名にこの身を縛られることが、どうして求められようか。捕らわれることはないのだ。


また、陶淵明に詩には、

  「飮酒二十首 其八」   陶潛
 愍昇濺豈燹⊇袷鞆鸞胸僉
 凝霜殄異類、卓然見高枝。
 連林人不覺、獨樹衆乃奇。
 提壺撫寒柯、遠望時復爲。
 吾生夢幻間、何事紲塵羈。

  「飲酒 其八」
愍湘豈爐忘澆譴鼻⊇袷霏兇了僂鰥鵑后
凝霜異類を殄(ほろぼ)さば、卓然として高枝を見(あらは)す。
林に連なれば人覚(さと)らざるも、独樹にして衆乃(すなは)ち奇とす。
壺を提(さ)げて寒柯(かんか)を撫で、遠望して時に復た爲(な)す。
吾が生 夢幻の間、何事ぞ塵羈(ぢんき)に紲(ほだ)さる。

青い松が東の畑に生えているが、
雑木が、その(松)の姿を隠してしまっている。
霜が降りて、外の木々を枯らし尽くした時に、
ひとり抜きん出た、高く秀でた木の枝が姿を現す。
林のところにあれば、人々は、その優れていることに気づかないが、
木が一本だけになって、ようやく、民衆は、めずらしいものだと気づく。
酒徳利をぶら下げて、松の寂しげな冬の枝を撫でさすり、 
時々、何度か遠くまで眺めやり、人生の来(こ)し方と行く末に思いを至らせる。
わたしの人生は、夢かまぼろしかのように儚(はかな)いのに、 
それでもなお、どうして、世間の煩わしい絆でもって繋ぎとめるのか。
(自由であるべきで世間の枠にとらわれる必要はないのだ。)

ここの「紲」は「絆」と同じく「きずな」です。
この上の二首に見られるような使い方が比喩としての本来ではないでしょうか。

 
唐の孫光憲の「竹枝詞」の中には、
 亂繩千結絆人深、 越羅萬丈表長尋。
 楊柳在身垂意緒、 藕花落盡見蓮心。
乱れし繩の千と結すびて人を絆(ほだ)すこと深く、
越の羅の万丈にして表(おもて)の 長(たけ)は尋(はか)れり。
楊柳の身に在るも意緒を垂らし、
藕花落(ち)り尽くして蓮心見(あら)はる。

乱れてもつれた縄のように恋人との思いの絡み合いはとても深いもの。
越羅の布地が一万丈ありましたら、上着の丈は測れましょう。(幾久しい訪れは永遠に続きましょう)
楊柳(垂れる思い)は身に留め置いても、思いの枝が長くたれています。
ハスの花が散り尽くしましたら蓮の実(あなたの心)が見えてきました。

ここでは「絆」が「愛着の念・恋しい人との断ち難い一体感」として詠われていますが、「繋ぎとめる綱」であることは変わりありません。


この災害時に、「安全」を言い続ける政府・官僚・学者はどんなしがらみに縛り付けられているのやら。その言を「嘘」と承知しつつ、その政策にのって地域や仕事や家や家族の様々な綱に縛られて身動きならずにいる人々がいます。
「絆」は「結び繋ぎとめる愛」をもいいますが、「絆」というさまざまの綱に縛られて避難も出来ないでいるのは悲惨な状況に見えて仕方ありません。政府を始めとして「絆」を断ち切ることこそが今求められています。
そういう意味で今年を表す漢字が「絆」であったのかと思えました。


【2011.12.14 Wednesday 10:36】 author : 杉篁庵主人
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「竹の公園」

簪花、己未(民国八年)星武爲薛涛写像

昨夜、旅のテレビ番組で唐代の女流詩人薛涛(せつとう)ゆかりの「望江楼公園」を紹介していました。
中国四川省の成都の錦江の西岸にあり、清代に薛涛をしのんで建てられた高さ30m余りの優美な4層の望江楼(崇麗閣)を中心に詩人にゆかりの詩吟楼、竹園などが配置されており、 薛涛箋を作っていた薛涛井や薛涛の像・墓・記念館があるということです。
竹は薛涛が好み、そのため公園は二百種に余る竹が集められて、「竹の公園」とも言われて、10センチほどの小さな竹からそびえる竹とその種は変化に富んでいるそうです。

その薛濤(薛涛)の詩。

「全唐詩」の卷803は薛濤の巻、77首録られています。
その第一首が竹を詠った詩です。

  「酬人雨後玩竹」薛濤
南天春雨時、那鑒雪霜姿。
眾類亦雲茂、虛心能自持。
多留晉賢醉、早伴舜妃悲。
晚歲君能賞、蒼蒼勁節奇。

  「人の雨後 竹を玩ずるに酬(むく)ゆ」 薛涛
南天春雨の時、那(な)んぞ雪霜の姿を鑒(かんがみ)ん。
衆類亦雲茂するに、虚心能く自ら持す。
多く晋賢の酔ひを留め、早に舜妃の悲しみに伴う。
晩歳君能く賞さん、蒼蒼勁節の奇なるを。

南の空から春雨(はるさめ)が落ちる暖かなときに、冬のはげしい雪や霜にたえている強い竹の姿は、とても想像できません。
たくさんの草木が盛んに繁っているときに、竹だけはなんの私心もなく、自分の生き方を守っているのです。
竹林は、晋の賢者たちが自らの世界に酔った思いを留め、また、舜帝の妃が帝の死に流した涙が湘水のほとりの竹の斑紋となったと語り伝えられる悲しみを思い出させます。
年の暮れになって、ほかの草木はみなしぼんでいますが、青々とした色を見せて雪霜のなかに力強く操を守って生きている、そんなくしき竹の姿をどうぞ讃えてくださいませんか。


その他の薛涛の竹の詩。

  《題竹郎廟》薛濤 卷803_40
竹郎廟前多古木、夕陽沉沉山更僉
何處江村有笛聲、聲聲儘是迎郎曲。 
 
 《十離詩。竹離亭》薛濤 卷803_68
蓊鬱新栽四五行、常將勁節負秋霜。
為緣春筍鑽牆破、不得垂陰覆玉堂。

【2011.05.22 Sunday 09:46】 author : 杉篁庵主人
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寒梅の詩


ふふむ梅に寒梅の詩を思い出し、人を偲ぶ心地になる。

唐の王維の「雜詩三首」のうちの第二首である。

  雜詩  王維
 君自故來、
 應知故事。
 來日綺窗前、
 寒梅著花未。

君故郷自(よ)り来たる、
応(まさ)に故郷の事を知るべし。
来たる日綺窗(きそう)の前、
寒梅は花を著(つ)けしや未だしや。

・綺窓:綾絹(あやぎぬ)を張った美しい(女性の部屋の)窓。 
 
あなたは私の故郷からやって来られた、
それなら故郷のことをきっとご存じだろう。
あなたが旅に出られる日、あの人のいる窓辺に、
寒梅はもう花をつけていただろうか。

「ここへやってくる時には、美しい飾りの彼の女の部屋の窓の前にある早咲きの梅は、花をつけていただだろうか。それともまだ」と、直接に女の状況を尋ねるのではなく、その部屋の前の梅のようすを尋ね、梅の気品と女への思いを詠う。なぜか好きな詩である。


次にあげるのはその三首目。
 已見寒梅發
 復聞啼鳥聲
 愁心視春草
 畏向階前生

已(すで)に寒梅の発(ひら)くを見、
復(ま)た啼鳥の声を聞く。
愁心 春草を視(み)て、
階前に向ひて生ぜんことを畏(おそ)る 。

はやすでに寒梅が開き咲くのを見、
そのうえ鳥のさえずりも聞こえてきました。
しかし、あなたに逢えぬまま心は愁うばかりで、萌え出た春の草をみて、
やがて逢えぬまま階(きざはし)まで生い茂るかと心配なのです。

なお第一首目は次の詩。

   雜詩
 家住孟津河、
 門對孟津口。
 常有江南船、
 寄書家中否。

家は孟津の河に住し、
門は孟津の口に対す。
常に江南の船有るも、
書を寄するや家中に否や。

住まいは孟津の渡しの河辺にあり、
門は孟津の船着場に向いています。
いつも江南からの船が来てはいますが、
あなたからの便りは私のもとへ来ないのでしょうか。

この「雑詩三首」は、孟津と江南、離れ離れに暮らす男女の思いを、一と三は女から男への、二は男から女への思いとしてを詠っているという。


 

【2011.01.31 Monday 13:52】 author : 杉篁庵主人
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