「さんこうあんにちじょう」は、HP「杉篁庵」(sankouan)の1頁です。
主にその日の庭の花の写真を掲載しています。
 
<< 白き秋風 | main | アメリカが新規原発建設を凍結 >>
老景沈重

 

 
書名・装丁が、まことに魅力的で「句集」より「歌集」の趣きを感ずる片山由美子句集『香雨』(こうう)を読んでいた。「香雨」は、あとがきに「依微たる香雨、青氛氳たり」という李賀の詩句によるとあった。詩としては初夏のもので、処暑に向かい、やっとのこと朝夕がいくぶん過ごしやすくなってきたこの頃の景には合わないが。
この本から「言葉にならないけはいようなもの」をどう言葉で掬い取るか、難しい課題を与えられたように感じている。

あとがきには詩の前半の引用があったが、全体は七句からなる七言古詩である。

『河南府詩十二月楽辞、幷閏月』
「四月」    唐・李賀(791〜817)
暁涼暮涼樹如蓋
千山濃緑生雲外
依微香雨憬氳
膩葉蟠花照曲門
金塘閑水搖碧漪
老景沈重無驚飛
墮紅殘萼暗参差

暁に涼しく暮に涼しく 樹は蓋(がい)の如く、
千山の濃緑 雲外に生ず。
依微(いび)たる香雨 青(せい)氛氳(ふんうん)たり。
膩葉(じよう)蟠花(ばんか) 曲門を照らし、
金塘(きんとう)の閑水(かんすい) 碧漪(へきい)揺る。
老景 沈重にして 驚飛する無く、
堕紅(だこう)残萼(ざんがく) 暗に参差(しんし)たり。

・依微:ぼんやりしたさま。
・氛氳:気の盛んなさま。
・膩葉:つややかに厚い葉。
・蟠花:群がり咲く花。
・曲門:宮中の隅々にある門。
・金塘:「金」は美しいことを言う冠詞。「塘」は堤、池。
・碧漪:「漪」はさざ波。波紋
・参差:互いに入り交じるさま。

夜明けは涼しく、暮れもまた涼しく、樹木は絹傘のように繁り覆って、
まわりの山々は緑を深くして、雲の上にもそびえている。
細かな香しい雨に、緑の気配が靄のように立ちこめる。
緑の厚みを帯びた葉や、集まり咲く花が角の門に照り映え、
美しい堤の閑かな水面に、碧のさざ波が揺れている。
樹木の成熟したたたずまいは重々しく、飛び立つ鳥も無く、
散りおちる真紅の花と枝にのこる萼とが木下闇に入りまじる。


李賀の詩とは違った意味でまさに「老景沈重無驚飛」の句が今の自分の心境と重なった。

【2012.08.17 Friday 14:40】 author : 杉篁庵主人
| 漢詩鑑賞 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
この記事に関するコメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック機能は終了しました。
トラックバック