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新春の朝まだき
新春の朝まだき、歌や詞を読んで過ごす正月です。

「あらたまの年立帰る朝(あした)より待たるゝものは鶯の声」 素性法師
「朝まだき起きてぞ見つる梅の花夜の間の風のうしろめたさに」 元良親王

李清照の菩薩蠻を正月を迎えた詞として、その訳詩をあげます。

 「春の朝」
雲間に鳥の声もせず
雪消の窓に風もなし
煌めくかざし
春迎え

明くるを告げし角笛に
茜に染まる空の色
花いまだしに
風寒し


李清照の詞はこちら。
それを以下に転載。

《原詩》
  菩薩蠻  李清照
歸鴻聲斷殘雲碧
背窗雪落爐煙直
燭底鳳釵明
釵頭人勝輕

角聲催曉漏
曙色回牛斗
春意看花難
西風留舊寒

《和訓》
帰る鴻(おおとり)の声断えて 残雲碧く
背(せな)の窗(まどべ)の雪落ちて 爐煙の直し
灯(ともしび)の底(もと) 鳳(とり)の釵(かざし)は明(きらめ)き
釵の頭(かしら) 人勝に軽し。

角声(つのぶえ) 曉漏(あかとき)を催し
曙の色は牛斗に回(もど)るも
春意 花看るには難く
西風 旧を留めて寒し。

《語釈》
・歸鴻:春になって北へ帰る鴻。
・鴻(おおかり):ひしくい。大形のガン。
・聲斷:鳴き声が聞こえなくなったこと。
・殘雲:残りの雲。わずかな雲。
・雲碧:雲が青い。蒼雲。漢詩では使われるが、夜(宵や明け方)の雲の色か。
・背窗:後ろ側の窓。北側の窓。裏窓。
・雪落:雪が溶けて落ち(その音が静寂の中に響く)。
・爐煙直:炉(香炉あるいは囲炉裏)の煙が真っ直ぐに上っている。(風もなく、静かな様子)
・燭底:ともしびの下で。
・鳳釵:鳳(おおとり)の飾りのある(二股の)かんざし。簪。
・明:きらきらとしている。
・釵頭:かんざしの飾りの部分。
・人勝:正月七日は人勝節、人日。金箔などで、吉祥を願うひとがたの飾りを作り、髪につけた。(七日には人を占ってその日が晴天ならば吉、雨天ならば凶の兆しであるとされた)七種粥の風習が残る。本来は羮(あつもの。汁)だった。
・角聲:角笛の音。(時を告げる角笛の音がもの悲しく響いてくる。)あるいは軍隊の楽器。
「角聲」を軍隊の楽器ととれば、彼女のいた建康に金が迫り、軍事的な緊張が高まった時の詞とも解釈できるが、静かな夜明けで、聞こえてくるわずかな音が時を告げる角笛の音だったのだろう。
・催:うながす。もよおす。
・曉漏:あかつきの時。漏は漏刻で、水時計をいうがここは時刻の意。
・曙色:あけぼのの色。明るくなってきた空のようす。
・牛斗:二十八宿の牛宿と斗宿の間。方位でいうと北東か。=斗牛、斗牛之間。【斗宿〈射手座の二等星〉北斗七星・牛宿(山羊座の一等星)牛の首/七夕の彦星】
・春意:春の気配。
・看花:花見。
・西風:西からの風。宋詞では、西や北は、異民族を暗示する言葉でもあるという。
・留舊寒:以前(冬)の寒さを留める。

《詞意》
帰って行く鴻の鳴き声もやみ、わずかな雲が深い緑色に空に漂っています。
裏窓にも雪が溶け落ち、香炉の煙は静かに真っ直ぐ上っています。
ともしびのもと、鳳の簪(かんざし)が灯の光にきらきらと輝いて、
簪につけた春を迎えた人日の飾りはあまりに軽やかです。
静けさの中に、今しも角笛の音が朝方の時の移ろいを急きたて、
朝明けの色が北東の空にもどってきます。
しかし、春の気配はまだお花見をするという気分にはほど遠く、
西から吹いてくる風は冬を留めていて寒いままです。

http://kansi.sankouan.sub.jp/
【2016.01.03 Sunday 06:57】 author : 杉篁庵主人
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