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薛濤の春望詞



今日は薛濤(せつとう)の「春望詞」です。
「漢詩百人一首」や「漢詩百選・人生の哀歓」は「春望詞」の「其三」を載せています。しかし、四首まとめて読みたい詩です。


 春望詞 四首 薛涛(唐)
 其一 
花開不同賞,花落不同悲。
欲問相思處,花開花落時。 


 其二 
攬草結同心,將以遺知音。
春愁正斷絶,春鳥復哀吟。 


 其三 
風花日將老,佳期猶渺渺。
不結同心人,空結同心草。


 其四 
那堪花滿枝,翻作兩相思。
玉箸垂朝鏡,春風知不知。


 「春の眺めの歌」
花開くも 同(とも)に賞せず、
花落つるも 同に悲しまず。
問わんと欲す 相(あい)思(おも)ふ処、
花開き花落つるの時。 


草を攬(と)りて 同心を結び、
将に以て 知音に遺らんとす。
春の愁ひの正に断絶して、
春鳥復(また)哀吟す。


風花 日に将に老いんとするに、
佳期 猶ほ渺渺(べうべう)たり。
同心の人を結ばずして、
空しく同心の草を結ぶ。


那(な)んぞ堪えむ 花 枝に満つるに、
翻(かえ)って両相の思ひを作(な)す。
玉箸 朝鏡に垂(た)る、
春風 知るや知らざるや。


・相思:想いあう、恋しあう。
・攬:自分のほうへ引っ張る、掌中に納める。
・同心:心を合わせる、相思相愛の仲。
・同心結:紐を二つの心臓形に結んだ物-男女間に授受して愛情の誓いを表す。
・将:まさに〜せんとす、きっと〜だろう。
・遺:残す、送る。
・知音:親友、知己。
・複:ふたたび、また。
・風花:風に舞う花びら。
・佳期:逢瀬の日。素晴らしい時。
・猶:まるで〜のようだ、なおまだ
・渺渺:はるかで遠いさま。
・同心人:心同じくする人、恋人。
・同心草:同心結びをした草。
・那:なんぞ。反語、疑問を表す。
・翻作:この苦しみを詩に翻案する。詩にする。
・玉箸:玉(ぎょく)でできた箸(はし)で、両目から流れ出る美女の涙の形容。


花が咲いても一緒に楽しむこともならず、
花の散る悲しみも共にできません。
この花が咲き、散ってゆくときに、
思いを共に出来る処があったら教えて下さい。
(そこに行ってあなたと一緒に思いを語りたいのです)
【別解釈1 お尋ねしたいのですが、いとしいお方の居るところの花が咲いて、花が散っていく春の情景は、如何なものでしょう。
 別解釈2 あなたと思いを共にできるところはどこにあるのでしょうか、それは花が開くときですか花が散るときですか。】

草をとって結び逢わせ、
愛するあなたに送りましょう。
春の愁いはいままさに極まりの果て、
春の鳥は哀しい声でまた唄っています。


風に花びらが舞い、ときはゆっくりと過ぎて行きます。
なのにあなたに逢える日はなお遥か遠いのです。
愛するあなたと結ばれることなく、
私はただ空しく同心草に結び合わせるばかりです。


花が開いて枝に満ちるというのにどうして耐えられましょう、
この相思う苦しさを詩に詠うばかり。
朝 独り鏡に向かえば愁いに涙こぼれますが、
春風は私のこの愁いの涙を知っているのでしょうか。
(吹く春風に載って良い知らせがやって来ることはあるのでしょうか)


薛濤(字・洪度、768年−831年)は中唐の伎女・詩人。魚玄機とならび詩妓の双璧と称されます。韓愈や白居易と同年輩です。もと長安の良家の娘でしたが、父について蜀(四川省)へ行き、父親の死後、落魄して妓女となりました。789年に、法に触れて松州の辺境守備軍駐屯地に流されましたが、釈放されて成都に帰ってからは妓籍を脱して西郊の浣花渓に隠棲し、女道士の服を着け、花を栽培し詩を詠み、白居易、元槇、牛僧孺、令狐楚、張籍、杜牧、劉禹錫など多くの人々と詩の応酬をしました。彼女が作った深紅の小彩がついた詩箋(原稿用紙・色紙・短冊のようなものか)は、当時「薛濤箋」として持てはやされました。また、王羲之の書法を学んだ書家としても認められ、その一片は宋の宮廷に秘蔵されていたといいます。


佐藤春夫訳‥「車塵集」より
其二
「音に啼く鳥」
ま垣の草をゆひ結び
なさけ知る人にしるべせむ
春のうれひのきはまりて
春の鳥こそ音(ね)にも啼け


其三
「春のをとめ」 
しづ心なく散る花に
なげきぞながきわが袂
情をつくす君をなみ
つむや愁ひのつくづくし

・「君を無(な)み」:あなたがいないので。
・「つくづくし」:土筆(つくし)。
(この訳詩「春のをとめ」はもともとは「我が一九二二年」の「同心草拾遺」に「つみ草」としてあったもの)


全唐詩の「卷八百三 薛濤」には薛濤の詩が76首ある。

【2008.08.21 Thursday 17:18】 author : 杉篁庵主人
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