「さんこうあんにちじょう」は、HP「杉篁庵」(sankouan)の1頁です。
主にその日の庭の花の写真を掲載しています。
 
桜狩

 

踏み惑ふ花屑の道旅ごころ 杉竹
桜狩舞ふ風避けて地下街に 杉竹
花疲れ遅き昼餉の温饂飩 杉竹

 

【2019.04.09 Tuesday 06:24】 author : 杉篁庵主人
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「ひとよ」


2019-076:愉(八慧)
逢ふも愉しわかるも愉しひとよとてうつろふべしや夢をたのみに
2019-077:もちろん(八慧)
かくてしももちろんなりとひとのよは心ぞそらになりぬべらなる
2019-078:包(八慧)
春うれふ思ひ包みてふくるよの猶つらかれと月の細かる
 

【2019.04.08 Monday 07:21】 author : 杉篁庵主人
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花吹雪の中の笑顔に手を振りぬ 杉竹
それぞれに門出祝へる花衣 杉竹
香の誘ふ胸の痛みや養花天 杉竹

 

【2019.04.08 Monday 07:05】 author : 杉篁庵主人
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土筆

 

堰堤の雨の上がりて土筆摘む 杉竹

生え揃ふ土筆の影の伸びゆける 杉竹

けふもまたひとりぼつちやつくしんぼ 杉竹

 

【2019.04.07 Sunday 07:13】 author : 杉篁庵主人
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「思ひきや」

 

2019-073:穂(八慧)
鶯の垣穂に鳴くや尺八の音を合はするに子猫あそべる
2019-074:ローマ(八慧)
表札のローマ字綴り新しく人待ち顔に花陰の濃し
2019-075:便(八慧)
ゆき違ふ春のもの憂き片便り忌まるばかりと空をながめつ

 

【2019.04.06 Saturday 07:51】 author : 杉篁庵主人
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花冷え

 

花冷えの手に握りこむ缶珈琲 杉竹
花冷えやひとりはひとり空見あぐ 杉竹
花冷えの朝のしじまの愁ひかな 杉竹

 

【2019.04.05 Friday 06:44】 author : 杉篁庵主人
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「過ぎていく春」


2019-070:到(八慧)
哀しみの思ひ到れる春の果て止まった時はもう動かない
2019-071:名残り(八慧)
あかなくも名残の花の雨雫哀しき色に仄か染まりぬ
2019-072:雄(八慧)
雄弁に語れぬままに宵過ぎぬ雲居の月に誘はれしかど
 

【2019.04.04 Thursday 08:46】 author : 杉篁庵主人
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水温(ぬる)む

 

愚かなるおのれの憎し水ぬるむ 杉竹
けふもまた答えなき問水温む 杉竹
山襞の朝靄深く温む水 杉竹

 

【2019.04.03 Wednesday 05:42】 author : 杉篁庵主人
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「梅花の歌三十二首」ならびに「帰田賦」

 

万葉集巻五「梅花歌三十二首」の「題詞」の中に「于時初春令月 氣淑風和」(時に、初春の令月にして、気淑く風和ぎ)の語句があり、これを出典として「令和」としたと説明された。
なお、これは、「文選」(530年頃成立)巻十五にある後漢の張衡(ちょうこう)が詠んだ「帰田賦」の、「於是仲春令月 時和氣清」(これにおいて、仲春の令月、時は和し気は清む)を踏まえていた。

 

万葉集/第五巻
[歌番号]05/0815の前にある[題詞]
梅花歌卅二首 并序
天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧 鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇 古今何異哉 故而賦之于園梅 聊成短詠也

 

梅花(うめのはな)の歌三十二首并せて序
天平二年正月十三日に、師(そち)の老(おきな)の宅(いへ)に萃(あつ)まりて、宴会を申(ひら)く。時に、初春の令月(れいげつ)にして、気淑(よ)く風和(やはら)ぎ、梅は鏡前(きやうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(かう)を薫(かをら)す。加之(しかのみにあらず)、曙(あけぼの)の嶺に雲移り、松は羅(うすもの)を掛けて蓋(きにがさ)を傾け、夕の岫(くき)に霧結び、鳥はうすものに封(こ)めらえて林に迷(まと)ふ。庭には新蝶(しんてふ)舞ひ、空には故雁(こがん)帰る。ここに天を蓋(きにがさ)とし、地を座(しきゐ)とし、膝を促(ちかづ)け觴(かづき)を飛ばす。言(こと)を一室の裏(うら)に忘れ、衿(えり)を煙霞の外に開く。淡然(たんぜん)と自(みづか)ら放(ひしきまま)にし、快然と自(みづか)ら足る。若し翰苑(かんゑん)にあらずは、何を以(も)ちてか情(こころ)を述(の)べむ。詩に落梅の篇を紀(しる)す。古(いにしへ)と今とそれ何ぞ異(こと)ならむ。宜(よろ)しく園の梅を賦(ふ)して聊(いささ)かに短詠を成すべし。

 

天平二年正月十三日に、大宰師の大伴旅人の邸宅に集まりて、宴会を開く。時に、初春の好き月にして、空気はよく風は爽やかに、梅は鏡の前の美女が装う白粉のように開き、蘭は身を飾った香のように薫っている。のみにあらず、明け方の嶺には雲が移り動き、松は薄絹のような雲を掛けてきぬがさを傾け、山のくぼみには霧がわだかまり、鳥は薄霧に封じ込められて林に迷っている。庭には蝶が舞ひ、空には年を越した雁が帰ろうと飛んでいる。ここに天をきぬがさとし、地を座として、膝を近づけ酒を交わす。人々は言葉を一室の裏に忘れ、胸襟を煙霞の外に開きあっている。淡然と自らの心のままに振る舞い、快くそれぞれがら満ち足りている。これを文筆にするのでなければ、どのようにして心を表現しよう。中国にも多くの落梅の詩がある。いにしへと現在と何の違いがあろう。よろしく園の梅を詠んでいささの短詠を作ろうではないか。

 

この一文は、梅花の歌三十二首の前につけられた序で、筆者は不明だが山上憶良の作かという。大伴旅人という説もある。
その内容には、天平二年正月十三日に大宰府の大伴旅人の邸宅で梅の花を愛でる宴が催されたというもの。
このころ梅は大陸からもたらされたものとして非常に珍しい植物だった。当時、大宰府は外国との交流の窓口でもあったのでこのような国内に無い植物や新しい文化がいち早く持ち込まれる場所でもあった。この序では、前半でそんな外来の梅を愛でる宴での梅の華やかな様子を記し、ついで梅を取り巻く周囲の景色を描写し、一座の人々の和やかな様を伝えてる。
そして、中国にも多くの落梅の詩があるように、「この庭の梅を歌に詠もうではないか」と、序を結んでいる。

この後つづく三十二首の歌は、座の人々が四群に分かれて八首ずつ順に詠んだものとなっている。座の文学として後に連歌となる原型とも取れ、また当時の筑紫歌壇の華やかさもよく感じられる。

 

最初の一首(815)
武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎<岐>都々 多努之岐乎倍米[大貳紀卿]
正月(むつき)立ち春の来(きた)らばかくしこそ梅を招(を)きつつ楽(たの)しきを経(へ)め【楽しき終へめ】大弐紀卿(だいにきのまへつきみ)
正月になって新春がやってきたならこのように梅の寿を招いて楽しき日を過ごそう。
一群の歌の冒頭の呪歌として寿を招く目出度い内容の一首となっている。

 

816
烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛[少貳小野大夫]
梅の花今咲ける如(ごと)散り過ぎずわが家(へ)の園(その)にありこせぬかも 少弐小野大夫(せうにをののだいぶ)
梅の花は今咲いているように散り過ぎることなくわが家の庭にも咲いてほしいよ

 

817
烏梅能波奈 佐吉多流僧能々 阿遠也疑波 可豆良尓須倍久 奈利尓家良受夜[少貳粟田大夫]
梅の花咲きたる園の青柳(あをやぎ)は蘰(かづら)にすべく成りにけらずや 少弐粟田(あはたの)大夫
梅の花の咲いている庭には青柳もまた蘰にほどよくなっていることだ。

 

818
波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武[筑前守山上大夫]
春さればまづ咲く庭の梅の花独り見つつや春日暮(はるひくら)さむ 筑前守山上(つくしのみちのくのかみやまのうへの)大夫
春になるとまず最初に咲く梅の花をわたしひとりで見て春の日を過ごすなどどうして出来ようか…

 

819
余能奈可波 古飛斯宜志恵夜 加久之阿良婆 烏梅能波奈尓母 奈良麻之勿能怨[豊後守大伴大夫]
世の中は恋繁(しげ)しゑやかくしあらば梅の花にも成らましものを 豊後守大伴(とよのみちのしりのかみおほともの)大夫
世の中は恋に苦しむことが多いなあ。それならいっそ梅の花にでもなってしまいたいものです。

 

820
烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 加射之尓斯弖奈 伊麻佐可利奈理[筑後守葛井大夫]
梅の花今盛りなり思ふどち插頭(かざし)にしてな今盛りなり 筑後守葛井(つくしのみちのしりのかみふぢゐの)大夫
梅の花は今が盛りだ親しき人々よ頭髪に挿して飾ろう。今が盛りだ。

 

821
阿乎夜奈義 烏梅等能波奈乎 遠理可射之 能弥弖能々知波 知利奴得母與斯[笠沙弥]
青柳(あをやなぎ)梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし 笠沙弥(かさのさみ)
青柳を折り梅をかざして酒を飲んだその後はもう散ってしまっても満足だ。

 

822
和何則能尓 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母[主人]
わが園(その)に梅の花散るひさかたの天(あめ)より雪の流れ来るかも 主人(あるじ)大伴旅人(おほとものたびと)
わが家の庭に梅の花が散る。はるか遠い天より雪が流れて来るよ。

 

823
烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都々[大監伴氏百代]
梅の花散(ち)らくは何処(いづく)しかすがにこの城(き)の山に雪は降りつつ 大監伴氏百代(ばんしのももよ)
梅の花が散っているのは何処でしょうか。それにしてもこの城の山には雪が降り続いていることです。

 

824
烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃々 多氣乃波也之尓 <于>具比須奈久母[小監阿氏奥嶋]
梅の花散らまく惜しみわが園の竹の林に鶯(うぐひす)鳴くも 少監阿氏奥島(せうげんあしのおきしま)
梅の花の散るのを惜しんでわが庭の竹の林に鶯が鳴いています。

 

825
烏梅能波奈 佐岐多流曽能々 阿遠夜疑遠 加豆良尓志都々 阿素i久良佐奈[小監土氏百村]
梅の花咲きたる庭の青柳を蘰(かづら)にしつつ遊び暮さな 少監土氏百村(せうげんとしのももむら)
梅の花が咲いている庭の青柳を蘰にして一日を遊び暮らそう。

 

826
有知奈i久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可尓可和可武[大典史氏大原]
うち靡(なび)く春の柳とわが宿(やど)の梅の花とを如何(いか)にか分(わ)かむ 大典史氏(だいてんししの)大原
うち靡く春の柳とわが屋の梅の花と、どちらが優れているかどのように判断しよう。

 

827
波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓[小典山氏若麻呂]
春されば木末隠(こぬれがく)れて鶯そ鳴きて去(い)ぬなる梅が下枝(しづえ)に 少典山氏(さんしの)若麿
春になれば梢に隠れて鶯が鳴き移るようです。梅の下枝のほうに…

 

828
比等期等尓 乎理加射之都々 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母[大判事<丹>氏麻呂]
人毎(ひとごと)に折り插頭(かざ)しつつ遊べどもいや愛(め)づらしき梅の花かも 大判事丹氏麿(だいはんじたんしのまろ)
皆それぞれに折りかざしつつ遊ぶけれど、なお愛すべき梅の花よ。

 

829
烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良<婆那> 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也[藥師張氏福子]
梅の花咲きて散りなば桜花継て咲くべくなりにてあらず 薬師張氏福子(くすりしちやうしのふくし)
梅の花が咲いて散ってしまったなら桜の花が継いで咲きそうになっているではないか

 

830
萬世尓 得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子[筑前介佐氏子首]
万代(よるづよ)に年は来経(きふ)とも梅の花絶ゆることなく咲き渡るべし 筑前介佐氏子首(すけさしのこおびと)
万年の年を経るとも梅の花は絶えることなく咲き続けるがよい。

 

831
波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 烏梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母祢奈久尓[壹岐守板氏安麻呂]
春なれば宜(うべ)も咲きたる梅の花君を思ふと夜眠(よい)も寝(ね)なくに 壱岐守板氏安麿(いきのかみはんしやすまろ)
春になってなるほどよく咲いた梅の花よ。君を思うと夜も眠れないよ。

 

832
烏梅能波奈 乎利弖加射世留 母呂比得波 家布能阿比太波 多努斯久阿流倍斯[神司荒氏稲布]
梅の花折りてかざせる諸人(もろびと)は今日(けふ)の間(あひだ)は楽(たの)しくあるべし 神司荒氏稲布(かむづかさこうしのいなしき)
梅の花を折りかざして遊ぶ人々は今日一日が楽しいことでしょう。

 

833
得志能波尓 波流能伎多良婆 可久斯己曽 烏梅乎加射之弖 多<努>志久能麻米[大令史野氏宿奈麻呂]
毎年(としのは)に春の来(きた)らばかくしこそ梅を插頭(かざ)して楽しく飲まめ 大令史野氏宿奈麿(だいりやうしやしのすくなまろ)
年ごとに春がめぐり来ればこのように梅をかざして楽しく酒を飲もう。

 

834
烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利 毛々等利能 己恵能古保志枳 波流岐多流良斯[小令史田氏肥人]
梅の花今盛りなり百鳥(ももどり)の声の恋(こほ)しき春来たるらし 少令史田氏肥人(せうりやうしでんしのうまひと)
梅の花は今が盛りだ鳥々たちの声も恋しい春がやって来るらしい。

 

835
波流佐良婆 阿波武等母比之 烏梅能波奈 家布能阿素○(田+比)尓 阿比美都流可母[藥師高氏義通]
春さらば逢(あ)はむと思ひし梅の花今日(けふ)の遊びにあひ見つるかも 薬師高氏義通(かうしのぎつう)
春になったなら逢おうと思っていた梅の花に今日の宴の席で逢えたことだなあ。

 

836
烏梅能波奈 多乎利加射志弖 阿蘇倍等母 阿岐太良奴比波 家布尓志阿利家利[陰陽師礒氏法麻呂]
梅の花手折(たを)り插頭(かざ)して遊べども飽(あ)き足(た)らぬ日は今日にしありけり 陰陽師礒氏法麿(おんやうしぎしののりまろ)
梅の花を手折りかざして遊んでいても飽きることない日は今日なのだなあ。

 

837
波流能努尓 奈久夜汗隅比須 奈都氣牟得 和何弊能曽能尓 汗米何波奈佐久 算師志氏大道
春の野に鳴くや鶯懐(なつ)けむとわが家(へ)の園に梅が花咲く 算師志氏大道(さんしししのおほみち)
春の野に鳴くよ鶯。その鶯を引き寄せようと我が家の庭に梅が花を咲かせている。

 

838
烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥尓波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖[大隅目榎氏鉢麻呂]
梅の花散り乱(まが)ひたる岡傍(び)には鶯鳴くも春かた設(ま)けて 大隅目榎氏鉢麿(おほすみのさくわんかしのはちまろ)
梅の花の散り乱れる岡には鶯が鳴いているよ。春の気配濃く。

 

839
波流能努尓 紀理多知和多利 布流由岐得 比得能美流麻提 烏梅能波奈知流[筑前目田氏真上]
春の野に霧(き)り立ち渡り降る雪と人の見るまで梅の花散る 筑前目田氏真神(でんしのまかみ)
春の野に一面に立ち渡って降る雪かと人が思うほどに梅の花が散っているなあ。

 

840
波流楊那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓[壹岐目村氏彼方]
春柳蘰(かづら)に折りし梅の花誰(たれ)か浮べし酒杯(さかづき)の上(へ)に 壱岐(いき)目村氏彼方(そんしのをちかた)
春柳を蘰にしようと折ったことだ。梅の花も誰かが浮かべているよ。酒杯の上に。

 

841
于遇比須能 於登企久奈倍尓 烏梅能波奈 和企弊能曽能尓 佐伎弖知流美由[對馬目高氏老]
鶯の声(おと)聞くなへに梅の花吾家(わぎへ)の園に咲きて散る見ゆ 対馬(つしまの)目高氏老(かうしのおゆ)
鶯の声を聞くのにつれて、梅の花が我が家の庭に咲いては散ってゆくのが見えるよ。

 

842
和我夜度能 烏梅能之豆延尓 阿蘇i都々 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美[薩摩目高氏海人]
わが宿の梅の下枝(しつえ)に遊びつつ鶯鳴くも散らまく惜しみ 薩摩(さつまの)目高氏海人(あまひと)
わが家の梅の下枝に遊びながら鶯が鳴いているよ。梅の散るのを惜しんで。

 

843
宇梅能波奈 乎理加射之都々 毛呂比登能 阿蘇夫遠美礼婆 弥夜古之叙毛布[土師氏御<道>]
梅の花折り插頭(かざ)しつつ諸人(もろひと)の遊ぶを見れば都しぞ思(も)ふ 土師氏御道(はにししのみみち)
梅の花を折りかざしながら人々の遊ぶのを見ていると都のことが思い出されるよ。

 

844
伊母我陛邇 由岐可母不流登 弥流麻提尓 許々陀母麻我不 烏梅能波奈可毛[小野氏國堅]
妹(いも)が家(へ)に雪かも降ると見るまでにここだも乱(まが)ふ梅の花かも 小野氏国堅(くにかた)
恋しい人の家に雪が降っているのかと見えるほどに散り乱れる梅の花だなあ。

 

845
宇具比須能 麻知迦弖尓勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曽 意母布故我多米[筑前拯門氏石足]
鶯の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため 筑前掾門氏石足(じやうもんしのいはたり)
鶯が開花を待ちわびていた梅の花は散らずにあってほしいものだ。恋い慕う子らのため。

 

846
可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能波那可毛[小野氏淡理]
霞立つ長き春日(はるひ)を插頭(かざ)せれどいや懐(なつか)しき梅の花かも 小野氏淡理(たもり)
霞の立つ春の日を一日かざしつづけてもなお恋しい梅の花だなあ。

 

宴の楽しさが伝わってくる32首である。
読み・解は、「万葉集入門」(http://manyou.plabot.michikusa.jp/)による。

 


また、「于時初春令月 氣淑風和」の元になっている文選の「歸田賦」は、次の詩。

 

 「歸田賦」張衡(78−139 東漢)
遊都邑以永久,無明略以佐時。
徒臨川以羨魚,俟河清乎未期。
感蔡子之慷慨,從唐生以決疑。
諒天道之微昧,追漁父以同嬉。
超埃塵以遐逝,與世事乎長辭。
於是仲春令月,時和氣清;原隰鬱茂,百草滋榮。
王雎鼓翼,倉庚哀鳴;交頸頡頏,關關嚶嚶。於焉逍遙,聊以娛情。
爾乃龍吟方澤,虎嘯山丘。
仰飛纖繳,俯釣長流。
觸矢而斃,貪餌吞鉤。
落雲間之逸禽,懸淵沉之鯊鰡。
於時曜靈俄景,繼以望舒。
極般遊之至樂,雖日夕而忘劬。
感老氏之遺誡,將回駕乎蓬廬。
彈五絃之妙指,詠周、孔之圖書。
揮翰墨以奮藻,陳三皇之軌模。
苟縱心於物外,安知榮辱之所如。

 

都邑に遊びて永く久しきも 明略の以って時を佐たすくる無し。
徒らにらに川に臨みて魚を羨い、河の清むを未だ期せられざるに俟つ。
蔡子の慷慨にして 唐生に従いて疑いを決せるに感ず。
諒に天道の微昧なる、漁父を追いて嬉しみを同じうせん。
埃塵を超えて遐(はるか)に逝き世事と長く辞さん。
是に於いて仲春の令月、時は和し気は清めり。原隰し鬱茂し、百草滋栄す。
王雎(みさご)翼を鼓ち、倉庚(うぐいす)哀しく鳴き、
頸を交え頡頏(けっこう)し、關關(かんかん)嚶嚶(おうおう)たり。
於焉(いざ)や逍遙し,聊以(しばらく)は情を娛しまん。
爾乃(しかして)龍の澤に方(むか)ひて吟じ,虎の山丘に嘯(うそぶ)き、
仰ぎて纖繳を飛ばし,俯して長流に釣るや、矢に觸れて斃(たお)れ,餌を貪して鉤を吞みて、
雲間の逸禽(かり)を落とし,淵沉の鯊鰡(はぜぼら)を懸くる。
時に曜靈俄景し、繼(つづき)て望舒なり。
般遊の至樂を極め、日夕に忘劬し難し。
老氏の遺誡を感じ、將に駕を蓬廬に回らす。
五絃を彈く妙指に、周・孔の圖書を詠ひ、
翰墨を揮ひて奮藻し、三皇の軌模を陳ぶ。
苟(いやしく)も心の物外に縱せば、安んぞ榮辱の所如を知らん。

 

  『田園に帰ろう』 張衡
『都住まいも久しくなるが、世をよくする功績なく、網も持たず、川岸で魚を得たいと望むばかり。
黄河の澄むよい時世を待つも、何時のことか計られぬ。
その昔、思いあぐねた蔡沢は、唐挙の占いに賭けて、迷いの霧をはらしたが、まこと人の運命は見通し難く 漁父をさがし求めて楽しみをともに分ちたいものだ。
いざ、この世の塵芥から抜け出て遥かな彼方に去り、生臭い俗事との縁を永遠に絶とう。

 

おりしも今は 春も半ばのめでたい月よ。時節はなごやか 大気は澄んで岡も湿地も鬱そうと 百草は繁り花さく。
雎鳩(みさご)は羽ばたき、倉庚(うぐいす)は悲しげに鳴き、頸すりよせて、上に下にと飛びかけり、仲睦まじく伴を求めて呼び交わす。
いざやこの地に遊び歩き、しばらく情を楽しませよう。

そうして私は、大きな沢で龍の如く吟じ 山や丘で虎のように嘯き、仰いで細い繳(いぐるみ)を放ち、俯し見ては長い流れに釣り糸を垂らすのだ。
鳥は矢にあたって斃れ、魚は餌を貪って鉤(はり)を呑む。
かくて雲間を飛ぶ鴻雁(がん)も射落され、深い淵にひそむ鯊鰡(はぜぼら)も釣りあげられる。

いつしか日は西に傾き、月がさし昇る。
心ゆくまで遊び楽しみ、暮れがたになっても疲れを覚えない。
しかし、狩を戒めた老子の遺訓に気づき、車駕を草蘆(いおり)に帰すことにする。
すぐれた五絃(こと)の調べを奏で、周公・孔子の書を口吟み、筆走らせては詩文を綴り、時には三皇の功業を書きしるす。
執らわれぬ境に心を解き放つならば、此の世の栄誉(ほまれ)も恥辱(はじ)も問うところではない。』


この詩は要するに「最近の政治は腐り切ってて嫌気さしたから田舎に帰って畑耕して暮らす」というもので、陶淵明の「帰去来の辞」へと繋がる知識人の厭世詩の系譜に入る。
張衡(78−139 東漢)は、中国の官僚。天文学者で数学者や地理学者、発明家でもあった。世界最初の水力渾天儀や水時計、地動儀と呼ばれる地震感知器なども発明したといわれる。
後漢(東漢)の第6代安帝に召されるも政治の腐敗を目の当たりにしていた。安帝は宦官の専横を許して後漢王朝衰退を招いた暗愚といわれる。この「安帝」に仕えるのを嫌って田舎に帰る役人の独白であった。
宦官が権力を私物化すると、それを批判し抵抗する知識人たちの世論が高まった。のち、これを清議と呼ぶ。彼らは自らを清流、宦官のことを濁流と呼んで非難し、宦官側は清議派を党人と呼んで弾圧した。

 

我が庵での生活にも通じ、なかなか趣深い詩であった。
万葉・文選のこれらを踏まえているとすると、「令和」はなかなかいい元号である。

 

  篁(たかむら)を染めて春の日しづみけり 日野草城

 

 

【2019.04.02 Tuesday 17:07】 author : 杉篁庵主人
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「袖の氷」


2019-067:アイス(八慧)
融けてゆく愛を検証するようにロックアイスでグラスをビート
2019-068:薄(八慧)
薄氷(うすらひ)の吹かれ融けゆく如くして消ゆる想ひのうすがすむかな
2019-069:途(八慧)
融けゆけば冥途の土産にもならぬ袖の氷は知る由もなき
 

【2019.04.02 Tuesday 07:20】 author : 杉篁庵主人
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